重い赤ちゃん星の周りで作られる炭素の鎖

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国立天文台野辺山の電波観測によって、星間分子の一種である炭素鎖分子が、比較的温度が高い、重い原始星の周りでも作られることが初めてわかった。

【2021年3月2日 国立天文台野辺山宇宙電波観測所

宇宙空間ではこれまでに200種類以上の分子が電波観測などで見つかっており、とくに星間分子雲と呼ばれる低温のガス雲の中には物質が分子の状態で多く存在している。こうした星間分子の中には、炭素原子がいくつも直線状に連なった構造を持つ「炭素鎖分子」というグループがある。炭素は様々な分子の骨格を形作り、生命の材料となる有機分子には必ず含まれる元素であるため、炭素鎖分子の研究は広い範囲にわたる重要なテーマだ。

一般に、炭素鎖分子は星が生まれる前の非常に冷たい(約10K = -263℃程度の)分子雲に多く存在するが、近年では、質量が軽い原始星の周辺のような、やや暖かい(25~35K = -248~-238℃程度の)環境でも炭素鎖分子が作られることがわかっている。一方で、質量が太陽の8倍を超えるような大質量星が生まれる環境で炭素鎖分子がどう作られているのかはあまりよくわかっていなかった。

学習院大学の谷口琴美さんたちの研究グループは、国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡を用いて、いて座とたて座の方向にある3つの重い原始星(G12.89+0.49, G16.86-2.16, G28.28-0.36)の周りに存在する炭素鎖分子「エチニルラジカル(CCH)」を観測した。この結果と、過去の観測で得られていた別の炭素鎖分子「シアノジアセチレン(HC5N)」の観測データを組み合わせて、これら3つの原始星の周りにあるCCHとHC5Nの比率を求めた。

その結果、いずれの天体でもCCHがHC5Nより約15倍多いという結果が得られた。これを化学反応のモデル計算と比べたところ、このような比率になるのは温度が約85K(約-188℃)の場合であることがわかった。比較のため、おうし座にある軽い原始星「L1527」周辺のCCH/HC5N比も導き出したところ、こちらの天体ではCCHがHC5Nより625倍多く存在していて、温度が約35K(-238℃)であることが明らかになった。

CCH/HC5N比の温度依存性
原始星の周りのCCH/HC5N比と温度の関係。赤は化学反応のモデル計算から得られた、2種類の分子の比率と温度の関係。黄色は今回の観測で得られた重い原始星の観測値。青は軽い原始星(L1527)の観測値。重い原始星の周辺で炭素鎖分子が作られる環境は、軽い原始星の周辺でこれらの分子が作られる環境よりも温度が高いことを示唆している(提供:国立天文台野辺山宇宙電波観測所プレスリリースより、以下同)

これらの結果から、重い原始星の周辺は軽い原始星の周辺とは大きく異なっていて、より温度が高い場所に炭素鎖分子が存在することがわかった。冷たい分子雲とも、軽い原始星周辺の暖かい環境とも違う、炭素鎖分子を生み出す新たなタイプの化学反応の場が存在することを示す成果だ。

これまで、重い原始星の周辺ではメタノール(CH3OH)のように水素原子が多く結合した有機分子が多いことが知られていたが、今回の研究によって、炭素鎖分子が効率よく生み出されている天体もあることが明らかになった。重い原始星の周辺は化学的に多様性に富んでいるようだ。

重い原始星の周りの炭素鎖分子
重い原始星を取り巻く高温の領域で、炭素鎖分子が生み出されている様子を描いたイラスト

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